医師、言語聴覚士、スタッフのコラム

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日々の気づきや、きこえの事など、各専門家の目線で難聴との関わり方を綴っています

第2回 先輩ママに聞いてみようの会

2021.05.26

第2回 先輩ママに聞いてみようの会

2021年4月24日(土)に

ZOOMで第2回先輩ママに聞いてみようの会を行いました。

 

テーマ内容は

入学予定・入学中の難聴児に向けた学校の過ごし方」です。

 

現在、高学年の難聴児を育てる

先輩ママのご協力を得て、体験談をお話下さいました。

 

第1回は入園。

そして第2回は入学をテーマにお送り致します。

 

※今回の質疑応答はあくまでも先輩ママの体験に基づいた意見です。すべての難聴児療育に該当する訳ではないことをご承知ください。

 

プロフィール

 

先天性の高度難聴で乳児期から両耳補聴器装用→小学校高学年時に片耳人工内耳手術を受け、現在は補聴器と人工内耳のbimodal装用。

 

ろう学校幼稚部を卒業された後、普通小学校に入学。

その後小学校低学年時にろう学校に転学したお子様

 

療育のあゆみ

 

・0歳…新生児聴覚スクリーニング検査にて難聴発覚。

    補聴器装用開始。

    病院で紹介されたろう学校乳幼児相談に通い始める。

・2歳…転居をきっかけに難聴児通園施設に通所。

・3歳…ろう学校幼稚部に入学。

・6歳…普通小学校に入学。

・7歳…ろう学校転学

・現在…うさぎクラブに通所中

 

新生児聴覚スクリーニング検査を実施して難聴が発覚し、その病院で補聴器を勧められ装用を始めました。そして病院から紹介された乳幼児相談に通い始めました。

当時は周りに難聴の方が居なく、そこしか頼みの綱がない状況でしたので、そこで教えてもらったことが全てでしたね。しばらくして知り合いも出来て、手話も覚えなければならないと思っていた時期に家族都合で転勤が決まりました。

 

そして転勤先で知った難聴児通園施設に週3日で通っていました。そこで言語訓練をしたり、季節の行事などを経験しました。

そして数ヶ月後、そこの言語聴覚士から補聴器の買い替えを勧められたので買い替えたところ、劇的に言葉が伸びたと感じました。

 

その経験から「自分自身でも行動しなくては駄目だな」と思いましたね。

 

そして3歳になった頃、当時はまだ母音しか発声出来ない状態で、言葉が聞き取れるのは私一人という状態だったのでろう学校幼稚部を選択しました。幼稚部では発話指導をしてもらい、50音すべてを綺麗に発話出来るようにしてもらいました。

難聴児通園施設の通所も併用を続け、幼稚部が終わった後に週2回ほど通って言語訓練や発達検査を受けたりしていました。

そして幼稚部卒業とともに再び転居して、きこえとことばの教室のある小学校へ入学をしました。しかし1年生の時にろう学校へ転学しました。

 

今回はそんな我が家のことについてお話します。

 

普通小学校での出来事

 

私の場合、入学前にきこえとことばの教室に事前相談しに行きましたね。そして先生方や教室が子どもに合うかな…と雰囲気を確認することをしていました。入学後は早い時期にクラス担任の先生に個別相談をお願いして、子どもが難聴であることを説明してお願いしたいことを伝えました。

 

普通小学校の担任の先生は、難聴の子どもを担当したことが無いというのが大半です。なので“聞こえないこと”や“聞こえにくい”というのがイメージし辛いと思います。そこで当時通っていた病院の医師の意見書や難聴理解に関する資料などをお渡しして配慮をお願いしました。

 

具体的な内容としては、話しかけるときには1m以内が聞き取りやすいことや、席は前から2列目の真ん中が望ましいなどです。

ちなみになぜ席が一番前ではなく2列目真ん中かと言うと、一番前だと周りで何をやっているかが見えにくいからです。それに比べて2列目真ん中だと前の人の動きも見られて、比較的聞こえやすい位置だからです。そのため席替えの時も私の子どもの席は固定して、周りが動くという形でした。

 

他にロジャー(※補聴支援機器)の使い方についても改めてお伝えしました。

よくあることですが、一度ミュートにすると解除を忘れちゃうことが多かったんですね。そしてミュートのまま授業が終わったこともありました。やはり聞こえないまま授業が進んでいくと途中で「先生聞こえません」と伝えるのが難しいんです。

あと先生の声はロジャーを通して聞こえても、友達の発言した声は当然聞こえません。他にその先生の授業が終わって、次の専科(図工や音楽など)の授業になる時に先生にロジャーを渡すのを忘れたり…。そういう意味でもロジャーの使い方が難しいというのもありました。

 

それからクラスメイトへの説明も行いました。

子どもに分かりやすいように紙芝居を作って、“聞こえにくいこと”や“補聴器”のことを紹介しました。そして大事な物だから後ろから取ったり投げたりしないでね、という内容を伝えました。

 

次に普通小学校に通うにあたって、学習面よりも生活面が大変だと思って、国語と算数の事前学習に取り組んでいました。

生活面が大変になると思っていたので、勉強の負担を少しでも減らそうと思って事前学習をしました。きこえとことばの教室でも、なるべく事前学習で済んだ国語と算数の授業の時に抜けて通えるようにお願いしましたね。

とても楽しんで通っていたのですけど…やはり授業を抜けて出ていくのでその間に何をやっていたのか分からないという問題がありました。いわゆる特別活動の時間に抜けることもあったのですけど、そういう日は欠席扱いとなって、何をしていたのかフィードバックを受けることなく終わるということも多かったです。

 

次に月曜日の全校朝礼についてお話します。

先生が全校生徒の前でマイクを使ってお話するのですけど、これが全く聞こえないんです。ロジャーを使ってもらってもマイクと共鳴して聞こえなかったみたいです。これも本人にとってとても辛かったことだったと思います。

 

次にプールについてです。

私の通っていた学校では言われなかったのですけど…どうやら難聴によって溺れると思われているのか「お母さん一緒にプール入って下さい」と言う学校もあるようです。

しかし補聴器を外してプールに入るので当然聞こえません。そのため私がボードを持っていって、先生の指示を書いて見せることをしていました。ですのでプールの時間になると学校に行っていたので、当時は大変でしたね。

 

あとは休み時間の過ごし方ですね。

友達も出来て楽しかった部分もあったのですけど、休み時間は校庭で遊びましょうという決まりがあって外に出ていました。しかし私の子どもは校庭に出ると、ほとんど聞き取れなくなってしまうんです。

なのでみんな鬼ごっことかしていても状況が分からないので、校庭の隅で一人砂に文字を書いて過ごしていたようです。

 

ろう学校への転学

 

普通小学校でも友達が出来て楽しかったことは多かったのですけど、朝礼や休み時間など困ることが積み重なってきていたんですね。

ある日、授業参観で図工の時間があったのですけど、教室から離れて図工室で行っていたんですね。すると一番後ろの席になって、図工の先生もロジャーを使用していなかったんです。

 

その光景を見た時に「教室の席だけじゃなくて、他の席でも同じように配慮してください」とそこまで言わなければならないのか…と思いました。このように聞こえにくさに対する配慮をお願いすることはとても難しいと改めて感じました。

  

また休み時間も孤独に過ごしていたので我が子が「学校は授業だけでいい。休み時間は要らない」と言い出したんですね。

決して普通小学校が悪いと言っている訳ではないんですけど、私の場合はこういう色々なことが積み重なって「やっぱり転学しよう」と決意しました。

 

しかし私としては一度普通小学校に行けたことは良い経験だな、と思っています。

ろう学校から普通小学校への転学は、とてもハードルが高いと思うので、最初に普通小学校を体験出来たことは良かったと思います。

 

ろう学校では…

 

でもろう学校がすごく適していたかと言うと、そうでもありませんでした。

クラスは少人数だったので配慮はあったのですけど、やはり大人数でのやり取りという経験値が少なくなってしまうことが心配でした。しかし授業は全部聞き取れて、先生との距離もすごく近かったので授業は安心してお任せ出来るというメリットはありましたね。

 

あとろう学校では手話を習得しましょう!という考え方が多いと思うのですけど、それぞれの家庭の考え方もありますので、どうしても合う、合わないがあります。私の子どもの場合は手話も使うのですけど、やはり耳で聞きたいと考える子なので、手話はそんなに堪能ではありません。その部分での苦労もありますね。

 

あとは学習面です。

人数が少ないので、みんなのペースに合わせて学習が出来るというメリットもありますが、何となくのんびりしてしまうこともあります。

我が家の場合は低学年のうちは自身で予習復習を行いました。家庭教師をお願いしたこともあります。その際には学校では行わないような応用問題をお願いしていました。その後、近所の公文に通い始め、自学のスタイルが合っていて現在も続いています。

 

難聴児の居場所

 

難聴児を育ててきて普通小学校がいいのか、ろう学校がいいのか、という答えについては正直ハッキリ言えません。

 

普通小学校でも良かったと思える面もあり、ろう学校で安心だったという思いもあります。どちらに進んでも悩むことがあったので、改めて難聴児というのは難しいと感じました。

 

あと我が子は美術が好きで、習い事をずっと続けています。暇があればずっと絵を書いているのですけど、そういう自分が没頭出来るものがあれば助かるなと思いました。

学校で辛いことがあっても、絵を描くことで心を安らぐことも出来たそうです。そのため何か一つでも、親が子どもの大好きなものを見つけて上げられると良いのかな、と思いました。

 

 

質問① ろう学校へ転学された時は手話が出来る状態で行かれたのですか?

 

《先輩ママの回答》

幼稚部に通っていたため、全く知らない状態ではありませんでした。

しかしあくまで幼稚部で行っていた手話なので、とても苦労した様子でした。でも子どもは順応が早いものですので、その環境に入ることで自然と手話を覚えていきましたね。

 

質問② 家庭教師を始めようと思ったのはなぜですか?

 

《先輩ママの回答》

通っているろう学校の勉強のペースは、その学年の子ども達の学力に左右されていました。なのでもう少し勉強させたいと思うと普通は塾に通ったりするわけですが、我が家は無理なので、家でやるしかないなと思った訳です。

低学年の学習は生活に関した勉強が多くて、内容も比較的簡単な訳ですが、高学年になるにつれて難しくなっていきます。なので学校で行っているものよりも少し難しいものを用意して行って頂きました。

 

質問③ 家庭教師の方は難聴に理解はある方でしたか?

 

《先輩ママの回答》

いえ、特別なスキルを持った方ではありませんでした。

我が子は静かな環境で1対1だと聞き取りにそれほど問題はなかったので、ロジャーも使ったりして、難聴理解のない先生でも大丈夫でした。

 

質問④ 事前に勉強されていたということですが、学校で初めて勉強をするというよりも、知っているものを聞きに行くというスタイルだったのですか?

 

《先輩ママの回答》

小学1年生まではそうでした。1年生の勉強は家で教科書を読めば、親でも分かるので教えやすいのですけど、それが出来なくなってくるのが3年生以降ですね。

親が毎日教えようと思っても時間もないですし、内容も難しくなっていきます。なので1年生は案外大丈夫なのですけど、そのスタイルを続けられるのは1~2年生までではないかと思います。

 

質問⑤ 普通小学校でのトラブルや困ったことはどういうのがありましたか?

 

《先輩ママの回答》

それが意外と無かったです。子どもは受け入れるのが早いというか、柔軟なのですね。

最初にこちらから補聴器や難聴のことを説明して、聞こえない時があったら教えてねと言うと、有り難いことに必ず誰かが世話をしてくれていました。最初に“補聴器や難聴について話題に出してはいけないという雰囲気を出させないようにすること”も重要ではないかと思います。

 

質問⑥ 通級は授業を抜けてでも通った方がいいでしょうか?

 

《先輩ママの回答》

最初は子どももそんなに嫌がらないですけど、高学年になるに連れて授業を抜けるのが嫌だと思ってくるかもしれませんね。

私の場合は小学1年生の間は週2回抜けていたのですけど、3年生になると週1回にすると先生と相談していました。他に月1回にしている子どもも居ましたね。

他に通級のメリットとしては、担任の先生に聞こえの先生を通して相談が出来ることです。親が直接言うよりも聞こえの先生が伝えて下さった方が良いこともあります。

 

質問⑦ 普通小学校に通われて苦労されたと思います。それでも一度通えて良かったと思われていますか?

 

《先輩ママの回答》

確かに苦労しました。

どこまで先生にお願いして良いのか”や“こんなにお願いしたら申し訳ないかな”とか…でもこのままだと子どもが困るしどうしよう、と毎日モヤモヤしていました。でもやはり聞こえにくいということが中々伝わりにくく、先生も他の生徒のことで忙しいので1人に構っていられないんですね。

でも6年間最初から最後までろう学校に通っていたら「もし普通小学校に通っていたらどうだったのかなあ」と思って過ごしていたと思います。ですので1回経験出来たことは、我が家にとっては良いことでした。

 

質問⑧ 子ども本人はどっちの学校が良かったなど話すことはありますか?

 

《先輩ママの回答》

ありますね。

普通小学校に通っていた時にすごく仲の良い友達が出来て、一緒に帰ったりしていたのですけど、たまに「そのお友達と学校通いたかったなあ」とは言います。ただ授業に関しては、転学を納得している様子です。

 

 

~うさぎクラブから一言~

 

幼い頃からお子さんの性格や意見を尊重し、お子さん主体でたくさんの選択を重ねてこられたことが伝わるお話でした。

 

旧難聴児通園施設、ろう学校、通常学級、難聴学級、放課後等デイサービスと、各種療育/教育機関もご経験されており、その違いや選択の理由をお話くださいました。

ご自身のご経験を主観的のみならず客観的な角度からも分析してお話してくださり、大変参考になるお話でした。

 

難聴と言っても、きこえ方は人それぞれに異なり、もちろん性格も異なるため一般化はできません。

そんな中で、どの選択が正しいかではなく、どういう過程を経てその選択をしてこられたのかをお話してくださったことは、どなたにとっても、選択に迷う時の支えになると感じました。

 

そして成長過程で常にその選択を見直し、

お子さんにとって”最適な環境を見つけるだけでなく、自ら“作り出す”大切さを教えていただきました。

 

難聴児の教育/療育はシステム化されておらず、情報もまとまっていないのが東京の実情です。

 

1つでも多くの選択肢を知った上で、それぞれにあった選択を主体的にできるように、うさぎクラブからも情報を提供できるように努めていきます。

また、保護者の方々、そして最終的にはご本人達同士の情報交換収集の場としてもうさぎクラブを活用していただきたいと思っています。

 

今回の会にご協力頂いた先輩ママ、

そしてお忙しい中、お集まり頂いた皆様、誠にありがとうございました。