医師、言語聴覚士、スタッフのコラム
日々の気づきや、きこえの事など、各専門家の目線で難聴との関わり方を綴っています
第1回 先輩ママに聞いてみようの会
2021.03.25
2021年3月13日(土)に
ZOOMで先輩ママに聞いてみようの会を行いました。
テーマ内容は
「入園を控える難聴児の園での過ごし方や工夫」です。
【今回の先輩ママのプロフィール】
補聴器を装用し、
児童発達支援センター+一般保育園を経て、
現在小学生になるお子さんのママ
※今回の質問応答はあくまでも先輩ママの体験に基づいた意見です。すべての難聴児療育に該当する訳ではないことをご承知ください。
質問① 通っていた園にどのような配慮をしてほしいと伝えましたか?
《先輩ママの回答》
まずは補聴器の特徴について、前から話すことが望ましくて、後ろから話されることが苦手ということをお伝えしましたね。
通っていた幼稚園では難聴児の受け入れが初めてということもあり、一般的に補聴器とはどういう物なのかということから話しました。
しかしあまり細かくお伝えはしていません。何故なら細かく伝え過ぎると先生側も「一体どんな聞こえない子が来るのか」と身構えてしまうと考えたからです。
ですので「○○してください」とはあえて言わずに、「後ろから話すと聞こえてないかもしれません」「話すときにロジャー(※補聴支援システム)の使用をお願いします」と簡単にお伝えしましたね。
するとその都度子どもについてお話して下さるようになって、教員との関係性も密になることが出来ました。
質問② 幼稚園でのトラブルはありましたか?
《先輩ママの回答》
私の場合は特にはなかったですね。
本人にも聞こえないことによるイジメなども聞いてみましたが、特に無かったようです。
質問③ 本人が聞こえで困ったことは何ですか?
《先輩ママの回答》
園庭に出たときが聞こえにくかったと言っていましたね。
あとは教員も一緒に走っている時のロジャーも聞きにくかったようです。
質問④ 園の子どもには、難聴のことをどう伝えていましたか?
《先輩ママの回答》
朝送り迎えする時に、補聴器をみて「これなぁに?」と聞かれることがありました。その時に「耳がちょっと聞こえにくいの。だからこれを着けてみんなの声を聞こえるようにしているんだよ」と伝えました。また先生の方も子どもたちに「これは大事な物だから大切にね」と軽くお話して下さっていたようです。
あとはその子の個性にもよりますけど、子どもって意外に柔軟なんです。なので子どもたち自身が“この子は聞こえにくい”と感じて対応してくれましたね。
例えば少し遠いところから話しかけると、他の子が「もうちょっと近付いた方がいいんじゃないの?」と言ってくれた時もありました。ですので本人はすごく楽しく過ごしていました。
質問⑤ 入園までにやっておいた方がいいことはありますか?
《先輩ママの回答》
まず1つ目は“実体験をさせてあげること”だと思います。
いわゆる行事や伝統を本当に体験することが言葉に繋がると感じます。通っていた幼稚園でも行事はやっていたのですけど、家でも行事を行っていました。例えば節分の日は柊や乾燥させた豆、鰯を実際に飾っていましたね。
そして何故その行事をするのか、どうして飾るのかを話しながら行っていました。
やはり子どもを見ていて感じるのは、面白くないことをやっても頭に入らないんですね。ですので実際に体験して、親も楽しみながら行事を実体験することで言葉が伸びると実感しました。
2つ目は“本人が聞こえないことを主張できる環境をつくる”ことだと思います。子どもから何度も質問されて疲れる時もあると思いますけど、出来るだけ質問に答える姿勢で取り組んでいました。
「質問してもいいんだよ」という環境をつくってあげると、園で聞こえなかった時に本人が「今の聞こえなかった」や「これから何するの?」と担任の先生に質問しに行けるようになりました。つまりそういう環境をつくってあげることが、親の出来ることではないかと思います。
3つ目は“補聴器や人工内耳の説明を自分で出来るようになる”ことだと思います。
幼稚園や保育園では親がフォローして説明することが出来ると思うんですけど、小学校になると離れてしまいます。なので自分で「これは大事なものなんだよ」と説明できるようになるとってもいいかなと思います。
あと4つ目は“出来るだけ正しい言葉で話しかける”ということです。
私達は助詞を抜いて話すことが多いですよね。例えば「鍋取って」「箸取って」「本取って」「〇〇行くよ」とかです。私達大人は助詞が抜けても通じてしまいます。しかし難聴児は健聴児とは違って、何となく聞いて、それを何となく覚えるということが難しいんです。なので出来る限り正確な言葉を使うことを意識していました。
先程の例で言えば「鍋“を”取って」「箸“を”持って」「本“を”取って」「〇〇“に”行くよ」という感じです。たまに言い忘れてしまうこともあったのですけど、出来る限り言い直をして話していました。あとは“ラ抜き言葉”ですね。「食べれない」というのではなく「食べ“ら”れない」とかです。子どもは親の言っている言葉で育っていくので、普段の言葉遣いは気を付けていました。
5つ目は“親が園や他の親御さんと関わる”ことが重要かなと思います。
何かあった時に声をかけてもらいやすくなり、逆にこちらからもお願いしやすいという関係性を作ることに役立ちました。
私自身あまり人前で話すことが得意ではない方だったのですが、PTAや役員決めなどの時に出来るだけ自分から行うことを心掛けていました。こういう経緯もあって、現在子どもの通う小学校のPTA役員にも立候補をしました。役員のやり方など全く分からない状態で飛び込んだのですけど、縦の繋がりというのが出来るのはメリットだなと感じました。
その理由が会長や副会長のお子様は、比較的高学年であることが多いんです。ですので立候補したことで知り合えたのは良いことだなと思っています。あと学校の先生とコミュニケーションを取ることが多いので、学校側に顔を覚えてもらえるというが最大のメリットですね。
そして出入りが多くなって「あの補聴器を着けたお子さんのお母さんですね」と覚えてくれる先生が増えたんです。そうすることでこちらから学校側にお願いしやすくなりましたね。
質問⑥ 子ども本人へ補聴器や難聴のことをどのように説明しましたか?
《先輩ママの回答》
私の場合は、言葉が分かるようになった頃から説明していました。
内容は「耳が聞こえにくいのは治らないんだよ」ということと、「聞こえる人も居れば、あなたのように聞こえにくい人も居るのよ」と常々説明していました。思春期になってから色々悩みが出てくるかもしれないけど、今のところは障害受容しているのではないかと思います。
質問⑦ 先輩ママは絵日記を作成したり、先生と連絡を取ったりなどしていましたか?
《先輩ママの回答》
私の場合は、特別先生とやり取りをすることはしていませんでしたね。しかし送迎の時に「今日は〇〇をしていましたよ」とか先生側からお話をしてくれました。
あと2歳ぐらいからずっと絵日記は作っていましたね。時系列だけではなく、その時に本人が一番興味もったことを書くことが効果あるのではないかと思います。
今は毎日、絵日記を作ることはしてないですけど、出掛けたり楽しい思い出が出来たときは書いたりするようにしています。絵日記は本人が書いたり、私が教えたい言葉がある時にも作ったりします。
質問⑧ 小学校入学前の療育頻度を教えてください。
就園前は週4回ぐらいです。
就園後も週3~4回ぐらいは行なっていました。
質問⑨ 週3~4回の療育というのはどのようなことをしていたのですか?
《先輩ママの回答》
個別訓練・少グループ訓練・グループ訓練を行なっていました。
週3~4回すべて勉強のような訓練ではなく、みんなの名前を呼ぶ当番だったり、ゲームを考えたり、季節の給食を食べたりなどです。
質問⑩ 小学校に行くにあたって難聴学級の有無を意識していましたか?
《先輩ママの回答》
本人へのサポートが手厚いということもあって難聴学級は意識していました。
私の学年には他の難聴児もいたのですけど、やはり難聴学級のある学校に進学したいというご家庭も多かったですね。あと校内通級の方が負担は少ないと思うのですけど、校外通級の方が気分転換になって良いという子どもも居ましたね。
校内通級と校外通級どちらもメリットはあると思います。
質問⑪ 最後に一言お願いします
《先輩ママの回答》
私達が療育場面でよく言われていた言葉があります。
それは“焦らない” “比べない” “諦めない”という言葉です。
子供が伸びる時期というのは、子どもによって様々です。就学前の最後の春休みで一気に伸びる子どもも居れば、もっと早い時期で伸びる子どもも居ます。しかし他の子と比べないことが大切です。もしも比べるならば、その子の1ヶ月前や1年前と比べて「こんなことが出来るようになった」と比べてほしいです。
他の子はこんなに出来るのに…と焦ってしまう気持ちも分かるのですけど、やはり伸びる時期はそれぞれ違います。ですので今でも子どもの可能性を信じて、丁寧に喋りかける子育てを心掛けています。
時間は掛かっても、丁寧に繰り返すことで本人も覚えていくので、焦らずに比べずに諦めずに、過ごして下さればと思います。
うさぎクラブから一言
お子さんの難聴という特性とそれに伴う経験を通じて、
お子さんだけでなく、ママも一緒にステップアップしてこられたことを確信するように、ママが堂々と輝いていらしたのが印象的でした。
先輩ママも仰ったように
就学へ向けて習得しておきたいのは
“言葉” だけでなく “難聴という特性との向き合い方” だと思っています。
自分の特性を理解し、自分や周りがそれにどう向き合うか。
家族の関わり方や周囲の環境を意識し、
幼い内から身に付けることが非常に大切です。
“特性を自分で理解し、受容し、周囲へ説明する力”を
就学までに習得できるよう、うさぎクラブでも心がけていきます。
また、保護者同士の繋がりはとても大事だと思います。
そういう居場所作りや環境作りなども
今後うさぎクラブで担っていきたいと思っています。
今回の会にご協力頂いた先輩ママ、
そしてお忙しい中、お集まり頂いた皆様、誠にありがとうございました。