医師、言語聴覚士、スタッフのコラム

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日々の気づきや、きこえの事など、各専門家の目線で難聴との関わり方を綴っています

新生児聴覚スクリーニング検査について

2021.01.27

新生児聴覚スクリーニング検査について

 

新生児聴覚スクリーニング検査ってなに?

 

新生児聴覚スクリーニング検査とは、

生後3日以内に行う聴力検査のこと指しており、生後まもなく産院に入院中に実施します。

 

どの位聞こえているのかを調べるのではなく、

あくまでも難聴の可能性があるかどうか――難聴の有無をチェックする簡易的な聴力検査です。

 

健康な聴力であれば、

十分聞こえる程度の小さめの音を聞かせて、反応があるかどうかをチェックします。

 

検査方法としては、

赤ちゃんが自然に眠っている間にヘッドフォンを耳に当てて音を聞かせて実施します。

 

音が聞こえていると反応する脳波、

もしくは内耳の細胞の反射を機械で捉えて検査結果を出していきます。

 

いずれも5分程度で終わり、

赤ちゃんにとって侵襲のない検査です。

 

▼新生児聴覚スクリーニング検査(自動ABR)中の写真

 


日本耳鼻咽喉科学会新生児聴覚スクリーニングマニュアルより引用
http://www.jibika.or.jp/members/publish/hearing_screening.pdf

 

なんのために検査をするの?

 

続いて新生児聴覚スクリーニング検査を

実施する理由についてお話します。

 

この検査を実施する

の大きなメリットとして、

 

もし難聴があった場合に、早く発見することが出来る

  

ことが挙げられます。

 

そして、もしも難聴があった場合には、

 

「早期からきこえを補償することで、言葉の遅れを防ぐことが出来る」

 

という大きなメリットがあります。

 

多くの人は、

耳から言葉(音声)を聞いて、理解し、話すようになります。

 

つまり難聴があると、

言葉の習得の始まりである”聞く”ことができないため、話すことに困難が生じるのです。

 

このような検査が導入されるまでは、

1歳を過ぎても”話さない”ことに気付いて、初めて難聴の診断がつく……。

 

そんなことも

珍しくありませんでした。

 

乳児期には聞こえていて話すことはできませんが、

この時期に聞いた言葉の蓄積があって初めて1歳を過ぎて話すことが可能になります。

 

また乳児期は脳の発達においても非常に重要な時期です。

 

この時期に聞こえているかどうかで、

後の言語発達においても差が出てきます。

 

もし難聴があれば、

乳児期から早期に補聴器などを装用しきこえを補償することで、言葉の獲得の遅れを防ぐことができます。

 

また先天性難聴の頻度は、

 

約1000人に1

 

と言われています。

 

つまり難聴は、

先天性疾患の中でも頻度が高い疾患なのです。

 

だからこそ難聴の早期発見早期療育のために

新生児聴覚スクリーニング検査が重要になるのです。

 

Refer(要再検)と言われたら…

 

 

新生児聴覚スクリーニング検査では片耳ずつ

 

・Pass(パス、正常反応あり)

・Refer(リファー、要再検)

 

上記どちらかの結果が出ます。

 

ここで誤解が生じやすいのが、

“Refer”=”難聴”」を意味するわけではないということです。

 

ここでのReferはあくまでも、

 

「もう一度精査をして難聴があるかどうかを調べる必要がある」

 

ということを表しているだけです。

 

スクリーニング検査だけでは難聴の診断はできません。

 

この検査では35dBという比較的小さな音を一種類のみ実施して、

精密検査の必要性があるかどうか、のふるい分けをしています。

 

そして精密検査では数種類の音の大きさで検査をして、

どのくらいの音の大きさで反応が得られるのか――をみて聴力レベル(きこえの程度)を検査していきます。

 

つまりReferとなったら、

耳鼻咽喉科精密検査機関を受診して、精密検査を受ける必要があるということです。

 

スクリーニング検査の信頼度

 

”両耳Refer”のうち、

精密検査結果で”両耳難聴”と診断される確率は、約50-60%程度と言われています。

 

このようにReferになったとしても、

精密検査の結果で難聴がないと診断される場合もあります。

 

このように

スクリーニング検査結果と精密検査結果が異なる理由としては、

 

・スクリーニング検査機器の種類や精度

・検査方法

・中耳の状況(羊水が耳の奥に溜まっている)

 

などが挙げられます。

 

スクリーニング検査結果は

あくまでも”可能性”を示しているに過ぎません。

 

精密検査へ繋げるための検査であり、

それだけで難聴の診断はできません。

 

逆にPassしてから、

難聴が見つかるケースもあります。

 

生まれた当初は聞こえていても、

徐々に難聴が生じてくるような進行性難聴遅発性難聴は新生児聴覚スクリーニング検査では捉えられません。

 

ですから、

もしもPassであったとしても、

 

”きこえていないのでは…?”

 

と感じた場合には、精密検査を受ける必要があります。

 


2018年 日本耳鼻咽喉科学会 
新生児聴覚スクリーニング後、聴力検査機関実態調査結果より改変作成

 

精密検査の受診時期

 

スクリーニング検査で、

両耳、片耳に限らずRefer となった際には速やかに精密検査機関を受診してください。

 

遅くとも生後3ヶ月以内の受診がすすめられますが、

生後3ヶ月になるまで待ってからの受診を勧めているわけではありません。

 

退院後すぐ――また生後1週間でも構いませんので早期受診をお勧めします。

 

早期受診を勧める理由は2点あります。

 

①待ち望んだ我が子との出会いの直後に”Refer”と言われた時、多くの方はショックを受けると思います。精密検査までの期間に悩みと心配が膨らんでいきます。

それらを払拭するためには、早期に専門機関を受診して正しい知識を得ることが大切です。

 

 

②生後早期にしか適さない検査が存在するからです。

先天性難聴の原因の1割程度は、お腹の中にいるときに風邪のウイルスにかかることで起こる、先天性サイトメガロウイルス感染症であることが知られています。生後三週間以内の赤ちゃんであれば、サイトメガロウイルスを検出するための尿検査を受けられます。

 

まとめ

 

新生児聴覚スクリーニング検査を、

有効に――そして前向きに活かすことが最も大切です。

 

しかし検査を受けたことで

余計に負担が生じることも事実です。

 

聞こえや言葉について早期から考える機会を持つことや、難聴という特性を早期に知ることが重要です。

 

そして赤ちゃんとご家族の未来の可能性を

最大限に拡げていってほしいと思います。

 

参照文献

・新生児聴覚スクリーニングマニュアル -産科・小児科・耳鼻咽頭科医師、助産師・看護師の皆様へ-

http://www.jibika.or.jp/members/publish/hearing_screening.pdf